大腸がん手術の後に、抗がん剤が必要と言われたら

今回は、大腸がんの手術の後に、抗がん剤が必要と言われたら・・抗がん剤の効果や副作用について解説していきます。関連動画「ステージ編」「手術説明編1・2」「合併症編1・2」もご覧ください。

詳しくは、動画配信を行っていますので、ぜひ下記の動画をクリックしてご覧ください。この記事では、動画解説を要約してお伝えします。

なぜ、手術後に抗がん剤が必要なの?

がんを治すには、しっかり手術で病巣を切りとるのが一番大事です。ただ手術では肉眼で見える病変と、そこから転移する可能性のある周囲のリンパ節までしか取れません。

がん細胞ひとつひとつはミクロの世界の大きさ(1mmの1000分の1)で、到底目にみえないレベルなのです。目に見えない「がん細胞」が体のどこかに残っている可能性が高いと思われる場合には、手術後の抗がん剤が必要になります。

がん細胞は血液の中に入ってしまい遠くの臓器に転移すると考えられているのですが、血液を詳しく調べてみると、実はかなり初期の段階から血液中にがん細胞が入り込んでいることがわかっています。ただし、自分の免疫力によってがんの転移をおさえ込んでいるのため、そう簡単にはがんが転移することはありません。

しかし、手術後に体力が弱り免疫力が低下すると、がんが再発しやすくなると考えられています。手術はあくまでも局所的な治療であり、血液中に入ってしまったがん細胞まではやっつけることができないので、手術後に抗がん剤を使うことで、「血液中や、手術で取り切れなかったわずかな がん細胞」をやっつけるという戦略です。抗がん剤を手術後に使用することで、再発率を下げることが明らかになっています。

ほとんどのがんは、「いったん再発してしまったら治りにくい」ため、再発してから治療するより、再発を予防することが重要なのです。

大腸がんでは、どういう人に抗がん剤が必要?

大腸がんの手術後にとった臓器やリンパ節を顕微鏡で調べて、リンパ節転移が判明した場合、ステージ3になり、ガイドラインでは術後に抗がん剤治療が推奨されています。また、ステージ2でも再発率の高い人(ハイリスクステージ2)には術後に抗がん剤をやることがあります。

ハイリスクステージ2とは

  • がんの深さ(深達度)が深い(T4)
  • 低分化腺癌(ていぶんかせんがん)・印環細胞癌(いんかんさいぼうがん)・粘液癌(ねんえきがん)など、顔つきの悪い細胞が見られる場合
  • 穿孔した場合。手術する前に、大腸がんが原因で腸に穴があき(穿孔:せんこう)、腹膜炎になってしまった場合(がんがお腹の中に散らばっている可能性があります)
  • 脈管浸襲:がんが血管やリンパ管に入り込んでいるような顕微鏡の所見が見られる場合
  • 傍神経浸潤:これも顕微鏡で見て診ないと分かりません。
  • 郭清したリンパ節が12個未満:内臓脂肪の多い人や体質的にリンパ節がみつかりにくく、リンパ節転移の評価不十分になってしまったばあい。
  • 断端陽性:がんの切り口にがんが残っている状態
  • 術後に、腫瘍マーカー(CEA、CA19-9など)が高い値を維持している場合など

抗がん剤をやらない方がいい場合は?

  • 肝臓や腎臓が悪い人。加齢にともない肝臓や腎臓の機能が衰えてくるので、高齢者に多い。
  • 元気のない人、軽作業・座って事務作業などが出来ないような人。
  • 手術にともない持病が悪化した人、術後合併症から回復していない人。
  • ちょっと難しいのですが、がんの組織を遺伝子検査して、マイクロサテライト不安定性が高い(MSI-H)という結果が出た場合は比較的予後が良いと考えられており、抗がん剤をしなくても良いという意見もあります。
またMSI-Hの場合、免疫チェックポイント阻害剤であるペムブロリズマブ(キイトルーダ)、ニボルマブ(オプシーボ)、イピリムマブ(ヤーボイ)などの効果が高いといわれ、注目されています。

 

大腸がんでは、どんな抗がん剤をどのくらい使うか?

フッ化ピリミジン系

  • 5-FU(ファイブエフユー)注射薬(点滴)。持続的に24時間投与して、血中濃度を一定の濃度を保つことが大事
  • UFT(ユーエフティー)飲み薬。N-SAS CC試験で(詳しくは「胃がんで手術のあとに、抗がん剤治療が必要ですと言われたら・後編」をご覧ください)直腸がんの再発率を下げることがわかっています。JCOG 0205試験では、 5-FUの点滴と同等の効果があることがわかってきました。
  • S1(エスワン)飲み薬。TS-1(ティーエスワン)とも言われます。効果はUFTと同等か直腸がんに関してはUFTより効きがいいとわかってきています。
  • カペシタビン(Cap)飲み薬。一般名はゼローダJCOG 0910試験では、大腸がんではS-1より効果がありそうだということがわかってきています。

オキサリプラチン(OX):注射薬(点滴)

フッ化ピリミジン系のお薬とオキサリプラチン(OX)の2種類のお薬を組み合わせて、同時に使うと効果が高いと言われています。術後2カ月以内から開始できるのが理想です。15年ほど前までは、数日入院して点滴治療していた病院が多くありました。持続点滴できるポンプ(インフューザーポンプ)を持ち帰って、入院せず外来で治療する方法(その場合、CVポートを作る手術が必要)をやっていた時期もあります。最近では、外来で数時間オキサリプラチン(Ox)を点滴して、カペシタビン(Cap)を内服するのが一般的になってきています。カペオックス(CapOx)やゼロックス(XELOX)と呼ばれています。

CapOx(カペシタビンCap+オキサリプラチンOX)の治療方法

3週間で1コース:初日に外来で数時間オキサリプラチンの点滴をして、2週間毎日2回(朝夕)カペシタビンを内服、1週間お薬飲まずに休薬。これを8コース(8回)繰り返しやるのが一般的です。ということは、3週間×8回=24週間=6カ月となります。

最近の臨床試験の結果から、低リスクであればCapOx3カ月(4コース)でも良さそうだということがわかっています。

実際、手術後に8コースの抗がん剤は、「かなり大変!」と感じている患者さんが多いです。全部の抗がん剤ができない人も多いです。体力や臓器が弱っている患者さんにも経口薬Capだけ6カ月かCapOx3か月だけにするか非常に悩ましい問題で、答えはまだ出ていません。 

抗がん剤の効果は?

現在は、なんらかの抗がん剤をやっているケースが多いので、抗がん剤をやらなかった場合のデータというのが余りまりません。かなり古い論文を読み解くしかないのですが、昔と今では手術の方法や、それ以外のケアもだいぶ変わってきているので、「現在の医療レベルで、あえて抗がん剤をやらなかったらどのくらい再発してしまうの?」という質問には正確に答えることができません。

あくまで予想するしかないのですが、過去の論文をいくつか読んでみると、ざっくり抗がん剤をしない場合の大腸がんの再発率は以下のように推定されます。

  • ステージ1=1%程度
  • ステージ2=5%以下(ハイリスクだと20~25%くらい)
  • ステージ3=幅が大きい10~50%くらい

日本人だけを対象にした臨床試験を参考にすると、内服の抗がん剤を半年~1年やった場合、やらない場合と比べて死亡リスクを11%、再発リスクを15%減らすことができる。さらにOXを加えると死亡リスクを3~4%、再発リスクを7%減らすことができることがわかっています。

 

抗がん剤の副作用は?

抗がん剤はがん細胞だけでなく、正常の細胞にも障害を与えます。副作用の程度や特徴は、抗がん剤の種類によって異なり個人差もあります。大腸がんで最近もっとも使われている抗がん剤Cap(カペシタビン、ゼローダ)、OX(オキサリプラチン)の副作用を説明していきます。

Cap(カペシタビン、ゼローダ)の特徴的な副作用

手足症候群が多く、半数以上の方に症状がでます。手足の皮膚がボロボロになり荒れて、赤くなったり、ヒリヒリしたり、指紋がなくなったりします。対策として、保湿(保湿クリーム)・保護(手袋)・保清(温水だと皮膚が荒れやすいので、水できれいに洗う)が基本になります。

その他一般的な副作用として、下痢8%、吐き気5%、食欲不振8%、好中球減少(免疫力低下)10%以下があります。

OX(オキサリプラチン)の特徴的な副作用

手足がしびれる人が多く、総投与量が多いほど、症状が強くなってきます。3カ月なら14%、6カ月だと37%に強いしびれがでるという状況です。しびれがひどい人は改善しないので、お薬を減らすか中止するしかありません。対策として、冷たいものをさわる時は軍手をする、カイロを携帯して手元を温める。足の方は厚手の靴下を履く。また、のども刺激されるようなので、冷たい飲み物は飲まない、歯磨きなどもお湯を使う、刺激物を食べないことです。

その他一般的な副作用として、食欲低下、吐き気、だるい、口内炎、血小板減少(出血しやすくなる)があります。

まとめ

  • 大腸がん術後のステージ3、ハイリスクステージ2に対して抗がん剤を使用するのが一般的。
  • 2種類の抗がん剤を使う(最近もっとも使われているのがカペシタビン+OX)。
  • 基本、CapOx6カ月(8コース)の治療ですが、低リスクなら3カ月でもいい。
  • 元気な人でも、CapOx6カ月全部できるのは6割程度で、薬の量を減らしたり、抗がん剤治療をやっていくことになります。
  • 高齢者や臓器障害がある人(肝臓・腎臓の機能が悪い人)は、たいてい全部は出来ないので、無理せず内服薬だけにすることも多い。

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