直腸癌と言われたら 「放射線か・・側方郭清か・・編」

 今回は「後遺症編」の続き、「放射線か側方郭清か編」です。

直腸がんは、手術後の後遺症がでやすく、結腸がんより局所再発が5倍多いとお話してきました。そこで、どうすれば再発を減らし、かつ後遺症も減らすことできるのか、欧米と日本では治療の考え方、「放射線治療がいいのか」「側方リンパ節郭清がいいのか」について説明していきます。

 詳しい内容は、ぜひ下記の動画をクリックしてご覧ください。この記事では、動画の重要な部分のみを要約して整理してお伝えします。

 

欧米と日本で、外科医の方向性に分岐点が!

 直腸周囲の上方向のリンパ節をしっかりとる直腸間膜全切除(TME)は、日本でも欧米でも同じ考えですが、問題は上方向以外の腸骨動脈の周りの側方リンパ節にも転移の可能性があるということです。

 日本の外科医の考え(手術+側方リンパ節郭清)

  • 難しい手術に挑戦して、技術を磨き上げることが外科医の仕事という…考え。
  • 肛門温存は出来ても、放射線を当てると肛門機能が低下し、後遺症がひどい。
  • 日本の外科医は手術が上手なので、欧米より合併症が少ないし、放射線にだって重大な合併症・副作用・後遺症がある。
  • 日本の患者さんは手術を好み、放射線を嫌がる人が多い。
  • 再発してから放射線治療をやればよい。(放射線は2回当てることができないので)
  • 若い人の場合、放射線治療は直腸のがんだけでなく、周辺の子宮や卵巣にも影響を及ぼし、妊娠できなくなるデメリットもある。

 欧米の外科医の考え(手術+放射線治療)

  • 放射線治療や抗がん剤治療は目に見えないがん細胞にも“一律の効果”がある。患者さんの解剖学的特徴(リンパの流れなど)や外科医の技量には個人差があり、手術には限界がある。
  • 肛門を取らないといけない手術でも、放射線治療や抗がん剤治療がよく効いて肛門が温存できた例もある。
  • 側方リンパ節に転移があれば、側方リンパ節だけとっても他の臓器への転移の可能性もあるので、そういう場合は放射線治療と抗がん剤治療は同時にできる治療の方が有効なのではないか。そして、合併症や後遺症の少ない手術をして、早く全身の治療をすることが、結果的に治りが早いのではないかという考え。

 欧米では、40年前より臨床試験で手術+放射線治療が手術単独より局所再発が少ないことが証明されていますが、日本の手術は欧米とかなり違うので、同じような結果にならないのではないかと考えられてきました。日本人の外科医は欧米より手術がうまいということを強調してきましたが、放射線治療があまり普及していない日本で、欧米のような臨床試験は実施されてきませんでした。そこで、側方リンパ節郭清が本当に必要なのか、放射線をせずに側方郭清をするか、しないかでどちらが再発を予防できるかを検証する臨床試験(JCOG0212)が行われました。日本の臨床試験(JCOG0212)の結果、側方リンパ節郭清には、局所再発を予防する効果があり、術後合併症や後遺症に有意差はなく、下部直腸がんのステージ2・3と診断されたら、これまで通り直腸間膜全切除(TME)+側方リンパ節郭清術が日本では標準治療と考えてよいだろうという結論になりました。

日本で放射線治療をやる場合、わかっていること

  • 放射線治療には術後の局所再発を予防する効果はあるが、ただし治り(生存期間)はあまり変わらない。
  • 抗がん剤も同時にやった方がよいが、ただし治り(生存期間)はあまり変わらない。
  • 術前にやった方が、局所再発が減りやすく、腫瘍が小さくなり肛門機能温存の可能性が高くなる。ただし治り(生存期間)はあまり変わらない。
  • 短期照射(5回/1週)でも効果あり、長期照射(25回/5週)の方が腫瘍は小さくなるが、副作用・術後合併症は長期の方が多いかもしれない。ただし治り(生存期間)はあまり変わらない。

放射線治療の最近の論点とは

  • 費用対効果はどうか。
  • 治療期間が長くなるため、副作用などもあり、患者負担が大きくなるのをどうやって減らしていくのか。
  • 化学放射線療法(放射線治療+抗がん剤)だけで、腫瘍が消える人が一定の数いるので、あえて手術しなくていい人もいるのではないか。
  • 局所再発より他の臓器への遠隔転移が問題なので、放射線の前後にも化学療法(抗がん剤)や免疫療法などを組み合わせて治療すべきか。
  • 放射線の当て方はどうか。放射線の当て方については、動画サイト【直腸がんと言われたら(放射線か側方郭清か!/後編)】18:17-を参照してください)

まとめ

 欧米を中心に、手術と放射線治療について40年以上前から臨床試験を実施して、エビデンス(科学的根拠)を重ねてきた歴史があります。日本では、側方リンパ節郭清にこだわってきましたが、日本の手術に欧米の知見をどう取り入れるか議論になっています。

 結局、手術も進歩していますし放射線治療も進歩していて、放射線治療VS側方リンパ節郭清については、結論がでていません。

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