ひどい虫垂炎!!インターバルって!?

前回は比較的軽症な虫垂炎について説明してきました。今回は、少し程度のひどい虫垂炎について解説します。もし前回動画をまだ見ていない方はぜひこちらから前回動画もご参照ご覧ください。

 さて今回は程度のひどい虫垂炎(複雑性虫垂炎)についてです。重症の虫垂炎の場合、まず薬の治療で炎症を落ち着かせてから手術を行う、いわゆるインターバル手術を勧められる場合があります。痛みや発熱が続いているのにすぐに手術をしてもらえず、「本当にこのままで大丈夫なのだろうか…」と不安に感じてしまう人もいるかもしれませんが、インターバル手術にはそれを行うだけのきちんとした根拠があるのです。

 この動画では最近増えてきているインターバル手術について、病気の学校「パンダ校長」が図解を用いてわかりやすく解説してくれています。ぜひご覧ください。

「ひどい虫垂炎」を複雑性虫垂炎という

複雑性虫垂炎とは?

 虫垂炎の中でも特に重症のものを指します。定義は本などによっても若干異なるのですが、ここでは「急性虫垂炎の中でも膿瘍形成を伴うもの」と理解しておきましょう。膿瘍形成とは虫垂の周囲に膿が溜まっている状態のことをいい、それがさらに酷くなると虫垂が破れて中に溜まったウンチなどが漏れ出してしまい、かなり危険な状態になります。そのため、すでに虫垂が破れてしまっている場合には緊急手術の適応となります。

 虫垂炎はその程度によっていくつかに分類されます。比較的軽症なものに「カタル性」や「蜂窩織炎性」があるのに対して、重症の場合は「壊疽性(腫れが強く血流の悪化によって虫垂が黒く腐りかけている状態)」や「穿孔性(虫垂に穴が開いてしまった状態)」に分類されます。これらが複雑性虫垂炎と呼ばれる状態です。

すぐに手術はしない。その理由とは?

 複雑性虫垂炎の場合だとすぐに手術をせずに一旦抗菌薬で症状を落ち着かせてから数ヶ月後に手術を行う場合があります。なぜすぐに手術をしないのかというと、炎症が大きいままだと手術で切り取る範囲が広くなり、体へのダメージが大きくなってしまうためです。盲腸や小腸にまで炎症が広がっている場合には盲腸切除や回盲部切除が必要になり、縫合不全などの術後合併症のリスクも増えます。そうならないために出来るだけ薬で炎症を鎮静化してから手術を行うのです。

最近増えてきている”インターバル手術”について

インターバル手術とは?

 まず抗菌薬で治療し炎症を十分に落ち着かせてから数ヶ月後(平均3ヶ月前後)に虫垂切除の手術を行う方法のことです。大人の患者さんでは賛否両論ありますが、子供の患者さんではインターバル手術を行うのが一般的です。

 もし抗菌薬で治らなければ緊急手術が必要になる場合もあり、大体10〜20%くらいの患者さんに緊急手術が必要になっています(=ドロップアウト)。最初から緊急手術をするか、それともインターバル手術で治療できるかの判断は難しく、外科医の判断によっても異なります。なるべくリスクの高い緊急手術を回避しようとしてインターバル治療を選択すると、どうしても多少のドロップアウトが出てしまうのは仕方のないことと言えるでしょう。

インターバル手術のメリット・デメリット

 この治療法のメリットは以下の通りです。

①術後合併症が緊急手術に比べて少ない

 ⇨緊急手術の場合は約20%の確率で何らかの術後合併症が起こると言われていますが、インターバル手術の場合は5%程度と安全性が高いです。

②お腹を大きく切るような手術を回避できる

 ⇨切除範囲が狭ければ傷の小さい腹腔鏡手術ができる場合も多いため、体へのダメージを抑えることが出来ます。

③事前に悪性腫瘍の精査が可能

 ⇨成人や高齢者の場合、悪性腫瘍が原因で急性虫垂炎を起こしている場合があります。40歳以上の複雑性虫垂炎では3〜8%に腫瘍が見つかったと言う報告もあるため、大人は特に注意が必要です。もし腫瘍がある場合には一緒にリンパ節を取る必要が出てきたり、手術の内容がだいぶ変わってきます。術前に精密検査を行うことができれば手術がスムーズに進みます。

一方で、デメリットもあります。

①入院期間が長くなる

 ⇨抗菌薬治療が10日程(効きが悪いともっと長くなる場合も)+手術時には3〜4日程度の入院が必要です。さらに手術までは平均2〜3ヶ月ほど期間があく場合が多いためトータルの治療期間は長くなります。

②抗菌薬治療中に緊急手術が必要になる可能性がある

 ⇨抗菌薬治療を行っても炎症を抑えることが出来ない場合は緊急手術が必要になります。この場合は患者さんの全身状態の悪化や合併症リスクが高まってしまいます。

③抗菌薬の副作用がある

 ⇨幅広い細菌に対して効果のある強めの抗菌薬を使用するため、耐性菌が出来やすかったり腎臓への負担が大きくなる可能性があります。めったにはありませんが、人によっては、ひどいアレルギー反応が出たりする場合もあります。

薬が効いたから手術はやらない!と言う選択は…?

 インターバルという治療は、基本的に手術を行う前提で、抗菌薬治療をしています。単純性虫垂炎の場合は薬だけで良くなるケースも多く、手術をしないという選択肢もありました(前回動画参照ください)。しかし、複雑性の場合はどうなのでしょうか?

 結論として、出来れば手術は受けた方が良いです。その理由は、複雑性虫垂炎の場合は虫垂の周りに膿が溜まっている状態のため手術をしないでおくと再燃してしまう確率が単純性の場合より高いからです。明確なデータはありませんが、複雑性虫垂炎の再燃率は1年間に10%前後と言われています。それに対して手術は比較的安全に行うことが出来、術後合併症のリスクが5%ということを考えると、待機的に手術を受けた方が良いという意見が優勢です。

もしどうしても手術が嫌だと言う場合にはその旨をきちんと医師に伝えるようにして、手術の予定を勝手にすっぽかすなんてことがないようにしましょう。

ひどい虫垂炎! まとめ

 今回の記事では【ひどい虫垂炎!!インターバルって!?】について解説しました。まとめとしては以下のようになります。

  • 複雑性虫垂炎はすぐに緊急手術をするか、インターバル手術を行うかのどちらか。
  •  ⇨インターバルの方が手術は安全なため、出来るのならインターバルの方が良い。
  •  ⇨状態によっては緊急手術をせざるを得ない場合もある(外科医の判断による)。
  • インターバルのデメリットは治療期間が長くなること。
  • 小児はインターバル手術を行うことが一般的。
  • 成人の場合は腫瘍の可能性もあるので、手術前に事前に検査を行っておくと良い。

 前回動画と合わせて急性虫垂炎について解説してきました。図解があると虫垂炎の状態や手術についてより具体的にイメージできるようになると思いますので、ぜひ動画を見てさらに理解を深めていってください。

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