食道がんと言われたら「ガイドライン編」

食道がん「病状説明編」では、食道がんの手術が難しい理由と治療法についてお話してきました。今回はステージごとの治療法について詳しく解説していきます。ガイドラインは、日本癌治療学会のホームページ(http://www.jsco-cpg.jp/esophageal-cancer/)で見ることができます。

詳しくは、動画配信を行っていますので、ぜひ下記の動画をクリックしてご覧ください。この記事では、動画解説を要約してお伝えします。

食道がんの治療方法

  • 内視鏡的切除=胃カメラで切り取る
  • 手術=食道亜全摘(しょくどうあぜんてき)+3領域リンパ節郭清(かくせい) 食道亜全摘:食道をほとんど切り取る 3領域リンパ節郭清:胸、お腹、首の3か所の手術を切り取る
  • 化学療法=抗がん剤治療(薬物治療)や免疫療法などの薬を使って、がん細胞の増殖を抑える治療
  • 化学放射線療法=抗がん剤+放射線照射治療

食道がんの治療方針は、これらの4つの治療を組み合わせて治療することになります。治療方法の決定は、とても専門性が高くて複雑ですので、卒後4-5年程度の医師でもあまりよく理解していない人がほとんどです。

治りがいいのは、手術。化学放射線療法は?

食道がんの治療において、手術が良いか、放射線が良いかという議論が良くあります。手術は体のダメージがとても大きいイメージがあるともいますが、抗がん剤と放射線治療を同時におこなう化学放射線療法も、それなりに大きな身体的負担がある治療法です。

手術について

食道の手術は、前回動画でも解説した通りかなり大変な手術になります。手術の日が一番のダメージを受けますが、日に日に回復していき、2週間から1カ月くらいで退院になります。食事は喉につっかえやすくなったり、食べられる量も少ないのですが、徐々に回復してきます。完全に元通りにはなりませんが、術後3か月ほどでそれなりの量を食べられるようになり、そのころには仕事に復帰できる方も多いです。術後1年も経つと、生活はだいぶラクになります。

化学放射線療法(抗がん剤治療+放射線照射療法)について

化学放射線療法は1カ月半ほどかかります。治療を始めた時の体へのダメージは少ないですが、1カ月を過ぎるころには、体へのダメージが大きくなってきます。また、化学放射線療法の場合、晩期障害(後遺症)があり、これは障害つづきます。具体的には食道のまわりの臓器にも放射線が当たってしまうとため、長期間にわたり肺炎や心臓のまわりに水が貯まるなどのリスクがあります。

 

ステージ0とⅠの治療法

 ステージ0の治療法

がん細胞が粘膜内にとどまっている(T1a)場合、内視鏡的治療(胃カメラで切り取る)が第一選択になります。

取った組織を病理検査して、リンパ節転移のリスクなさそうならば、ステージ0と診断できます。しかし、病理検査の結果、おもったより がんが深くなっていてT1bだったり、リンパ管浸潤などの転移のリスクが高そうな所見が認められれば手術が必要になります。

この場合、手術を行えば高い確率で(98%)食道癌は治るのですが、手術関連死亡が1-2%あるので、体力や持病で手術に耐えられない不安があれば、化学放射線療法を検討する、とガイドラインには書いてあります。ただ経験上、手術に耐えられないくらいの体の状態が悪い人の場合は、化学放射線療法にも耐えられないことが多いです。

 

 

 

 

 

その場合は、内視鏡的治療だけで様子を見ることもあります。内視鏡治療で注意しなければならないのは、広範囲に粘膜を切ってしまうと、食道がひどい潰瘍になり、食道が狭くなってしまうのです(狭窄:きょうさくという)。そうなると、食べ物がまったく通らなくなってしまうこともあります。病変の範囲が広い場合には内視鏡的切除はお勧めできません。

ステージ0の悩ましい点「広範囲のがんは、安易に内視鏡的治療をしないで!」

がんの深達度がT1aの場合、体へのダメージを考えると、まず内視鏡的切除を行い、取ったがんを詳しく調べて、リンパ節転移の可能性がある人だけが、追加で放射線治療や手術を行うのが良いと思います。

しかし、食道がんは広範囲にがんが広がりやすい性質があり、広範囲に広がっているとどっかでがんが深く浸潤していたりしてリンパ節転移の可能性も高くなります。そうなると、第一に内視鏡的切除をしてしまうと、前述の通り食道が狭窄(きょうさく)して食事がとれなくなってしまいます。この状態で、放射線治療をやってしまうと狭窄がさらにひどくなるリスク高く、広範囲の粘膜切除と放射線治療は併用しないほうが良いのです。

つまりがんの深さがT1aだと思われても、がんが広範囲に広がっている場合に、「体力的に手術できない・または絶対に手術を受けたくない人」は、内視鏡切除は行わず、最初から化学放射線治療をやった方が良いのです。

ステージⅠの治療法

がんが少し深くなっている(T1b)場合、CT検査でリンパ節転移がなければステージⅠです。技術的にがんのところを内視鏡で取れますが、リンパ節転移が30%くらいにみられるので、手術でリンパ節と一緒に食道を取るか、化学放射線治療を行うことが推奨されます。日本から臨床試験の結果では、ステージ1に関しては、手術でも化学放射線治療でも生存率に有意差はみられないということがわかりました。どちらの治療にするかは主治医と相談して決めていくと良いでしょう。

ステージⅡとⅢの治療法

ステージⅡとⅢについて、どんな状態かは、上の図をご覧ください。ステージⅡとⅢは、手術と化学療法(抗がん剤治療)を両方やるのがスタンダードです。ガイドラインには、手術ができない場合(耐術能なし)についての治療法も記載されています。手術が出来るか出来ないかの判断は、なかなか難しい部分もあるのですが、呼吸機能検査や心臓の検査などを行って慎重に評価します。食道がんの患者さんはとくにタバコを吸っていた人や、大酒飲みの方も多く、肺や肝臓などの臓器の状態があまり良くない方もおられます。

耐術能:手術にたえられるだけの能力(体力)のことです。耐術能のあり・なしの評価は検査(呼吸機能検査や心電図など)をして主治医と麻酔科医が判断することになります。
完全奏功:抗がん剤や放射線治療で、がんがすべて消失した状態
経過観察:定期的に状態の変化をみるための診察や検査を行うこと
遺残:がんの取り残し
救済治療(サルページ):化学放射線治療のあと遺残・再発の場合に行われる手術や内視鏡的切除のこと 
緩和的治療:緩和ケア、苦痛を和らげる治療

手術+抗がん剤 の順番も大事!

考え方は2通りあります。手術を先にやるか、あとにやるかです。

1.まず手術をして、ステージIIまたはIIIとなった場合に術後抗がん剤をやる

2.手術前にステージⅡ~Ⅲが見込まれるとき、まず抗がん剤をやってから手術をする。

ステージⅡ~Ⅲの場合、1の手順で手術後に抗がん剤をやると再発率が10%くらい下がるという臨床試験の結果が出ています。また、手術後に抗がん剤をやるより、手術前に抗がん剤をやったほうが無再発生存率が良いことも、臨床試験の結果でわかっています。ただし、腎機能(腎臓の働き)が悪い人に、抗がん剤をやるとさらに腎機能が悪化してしまい、手術がやりにくくなってしまう可能性があるので、最初から手術をせざるをえない場合もあります。また、食道がんの抗がん剤治療は1コース約1カ月かかります。標準的には2,3コース行うので、2~3か月ほどを要します。最初から、がんが大きくて食べ物が通らないような人は、この期間に栄養状態が悪くなってしまう可能性もあるので、最初に手術をせざるを得ない場合もあります。

まとめ

ステージ0(0期)

内視鏡的切除、ただし全周病変は狭窄が怖いので、内視鏡的切除せずに最初から化学放射線治療する選択もあります。

ステージⅠ(Ⅰ期)

リンパ節転移30%あるので、手術か化学放射線療法のどちらか選択することになります。効果の成績は同等ですが、化学放射線療法の場合は、再発して手術が必要になることもあります。

 

ステージⅡ~Ⅲ(Ⅱ期、Ⅲ期)

化学療法(抗がん剤治療)と手術の両方をやる必要があります。できれば、抗がん剤治療をやってから手術が望ましいですが、抗がん剤治療が出来ない状態なら最初に手術することになります。

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