胃がん手術後に抗がん剤を飲まないといけないの?
胃がんの手術の後、医師から「手術後は抗がん剤を服用していきます」と言われることがあります。「せっかく痛い思いして手術を乗り越えたのに…」「手術の後にまだ抗がん剤を飲む必要があるなんて、本当に手術は成功しているの…?」などと思ってしまう患者さんもいらっしゃるかもしれません。
結論から言ってしまうと”胃がんの手術後に抗がん剤の使用を勧められたら、”基本的にはやったほうが良い”ということになります。手術後の病理検査でステージ1以外と診断された場合には、抗がん剤治療を行うことがガイドラインで推奨されています。 なぜ手術後に抗がん剤の服用が必要なのかについて、こちらの動画で詳しく説明されています。
治療のスケジュール
治療方法はステージによって異なります。ステージ2と診断された場合、TS-1という内服薬を4週間(朝晩2回)内服⇨2週間休薬を1コース(つまり1コースで6週間)を全8コース実施します。
ステージ3と診断された場合は、最初TS-1を2週間内服・1週間休薬(2-1と表記)し、ドセタキセル(1日で終了)+TS-1(2-1で内服)を6回繰り返し、後半はTS-1のみ(4-2で内服)を5コースすることになります。文字だとわかりにくいので図解すると以下のようになります。(先ほど紹介した動画で丁寧に解説しています:本編:10:35〜)
抗がん剤の副作用は?
TS-1の副作用
TS-1の副作用は、以下の症状が多いです。
- だるい(倦怠感という)
- 吐き気
- 食欲低下
- 下痢
- 皮疹
- 爪が割れる
- 色素沈着(色黒になる)
また、すぐに自覚症状が無くても、血液検査で副作用がでている場合があり、定期的に血液検査を受けながら抗がん剤を調整していきます。
- 骨髄抑制
- 肝機能障害(肝臓の数値が上がる)
- 腎機能障害(腎臓の数値が上がる)
骨髄抑制とは、抗がん剤によって血液を作り出す骨髄の機能が低下してしまう状態で、多くの抗がん剤で起こる副作用です。TS-1の内服だけであればそれほど強い骨髄抑制は起こりませんが、赤血球・白血球・血小板の量が低下します。以下のような注意点があります。
赤血球の量が低下⇨貧血、白血球低下⇨免疫力の低下、血小板量の低下⇨出血しやすい
ドセタキセルを追加した場合
ステージ3と診断されて、TS-1服用に加えて、ドセタキセル点滴を追加した際の副作用は、以下のようなことが重要です。症状として目立つのは、髪の毛が抜ける(ほぼ完全に抜けます)ということです。抗がん剤が終われば、また髪は生えてきますが、髪の質が変わったといわれる人もいます。完全に元通りの髪の毛に戻るわけでもないようですが、ちゃんと生えてきます。 口内炎や、食欲不振、倦怠感などもドセタキセル点滴を追加するとさらに強くなります。
とくに怖い副作用は血液中の白血球数がかなり下がることです。白血球が低下(白血球の中でも、とくにばい菌と戦ってくれる好中球という細胞が1000未満になってしまうと感染症を起こすリスクが高くなります。1000未満になる確率が20%程度あると言われています。)
その他、TS-1だけのときと比較して、血小板減少リスクは4倍、貧血は2倍起こりやすくなります。
抗がん剤の効果は?
つらい思いをするだけに、それに見合った効果があるでしょうか?
手術後にステージ2,3と診断された人を対象にしたACTS-GC試験(2007年に日本から論文がはっぴょうされています)で、以下の結果が出ています。
- TS-1を飲まなかった患者さん ⇨3年間の再発率:40.4%
- TS-1を1年間(8コース)内服した患者さん ⇨3年間の再発率:27.8%
またSTART-II試験(JACCRO GC07: 2019年の論文)では、手術後にステージ3と診断された人を対象に以下の結果が出ています。
- TS-1の内服だけの患者さん ⇨3年間の再発率:50.0%
- ドセタキセル+TS-1で治療した患者さん ⇨3年間の再発率:34.0%
手術後に抗がん剤を服用することで再発率は下がるという結果が出ています。
胃がんは、再発してしまったらほとんどの場合、完治することが難しくなります。再発してから抗がん剤をやっても、治りは悪いのです。ですから予防が大事なのです。手術後に抗がん剤を頑張ることで、すこしでも再発の確率を下げることが大切と考えられています。
今でこそ標準治療になったけれど・・・
まだまだ、抗がん剤の使用に抵抗がある患者さんは多くいらっしゃいます。無理に抗がん剤を飲まなくても・・・、抗がん剤は意味がないって聞いたことがあるなんて方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、前述の効果を知ったうえで、その程度の効果なら、自分は飲まなくてよいと判断するのであれば、飲まなくてもいいと思います。ほかに持病があって臓器機能が悪い人は、抗がん剤をやりたくても出来ない、という場合もあります。このような臨床試験データがあるからこそ、自分の価値観で治療法を選ぶこともできるようになってきたのです。
今でこそ術後の抗がん剤治療は効果が認められた標準治療になっていますが、そこまでには数々の試練がありました。
そもそも、20年以上前は、あまり抗がん剤は信用されていなかったのです。当時のがんセンターの偉い先生でさえ、自分ががんになったときに術後の抗がん剤治療を拒否したという話があるほどです。つまりがんの専門家ですらその効果を疑っていたのです。
当時の術後抗がん剤は「効いているのか分からないけど、とりあえずやっておこう」という感覚で処方されていました。この状態で数百億もの年商を挙げていたと言われていたのが、当時内服の抗がん剤で主流だったUFT(大鵬薬品)でした。この時期、他の薬剤でもいくつかの不祥事があり厚生省の薬剤の認可について問題になっていました。そのやり玉にあがったのが、当時「なんとなく大量に」処方されていたUFTだったのです。ここから大鵬薬品やがんセンターを中心とした癌治療の専門家たちの長い戦いが始まります。この経緯に関しては、動画後編で配信しています。なかなか痺れる内容となっていますので良ければご覧ください。そこには厚生省、大鵬薬品、医師そして患者団体の思いが交錯する熱い人間ドラマがあったのです。
結論から言うと、術後にUFTおよびTS-1服用した場合、服用しなかった場合と比べて5年後の生存率が有意に高く、術後に抗がん剤を服用することが臨床試験により証明されました。
ただ動画でも述べている通り、臨床試験を行うにあたり参加者が中々集まらなかったりと様々な苦労がありました。(試験に参加してくれた患者さん、苦労してデータを取りまとめた研究者の方々に感謝の気持ちを持つ必要があります。)
まとめ
今回の記事では【胃がんの手術後に「抗がん剤が必要です」と言われたら?】に関して解説致しました。まとめとしては以下のようになります
【基本的に術後の抗がん剤は必要】
・ステージ2ならTS-1内服
・ステージ3ならTS-1とドセタキセル点滴
⇨再発したら治らないことが多い。だから再発を予防することが重要。絶対に予防できるわけではないが、それなりに効果が認められているので、やった方が良い。
ご自身の病気やその治療方法について見識を深めることで、よりよい治療に繋がると思います。動画で図解を用いてわかりやすく解説していますので、ぜひご覧ください。