食道がんで手術と言われたら「病状説明編」

 食道がんで手術と言われたら、患者さんやご家族は、病気や治療、手術後の生活のこと、たくさんの不安や悩みを抱えると思います。実は、食道がんの手術は「消化器外科のなかでも最高峰に難しい手術」と言われます。 実際、手術は朝一番で始めても、早くて夕方ころまで、遅いと夜中までかかることもありますし、術後の合併症も多いです。なぜ食道がんの手術が難しく、術後合併症や死亡率が他の手術と比べて高いのか・・・。今回は食道の場所や食道がんの特徴について解説していきます。

 詳しくは、動画配信を行っていますので、ぜひ下記の動画をクリックしてご覧ください。この記事では、動画の内容を要約してお伝えします。

 

食道がんの手術は、なぜ難しいのか

食道の場所

食道は、のど(咽頭:いんとう)の下からみぞおちのあたりで胃に入るまでの、長さ25-30cm、直径2-3cmほどの円柱状の臓器です。食道は食べ物の消化や吸収する働きはありませんが、食べ物を口から胃に運ぶという重要な役割があります。

 

食道のまわりの臓器

食道は入り組んだ場所にあり、食道のまわりには、命に直接関わる重要な臓器がひしめいています。たとえば「心臓」、「大動脈」、「肺」、「気管」などの人間が生きていくうえで欠かせない重要な臓器に囲まれています。そのため手術の際、食道のまわりの臓器を傷をつけないよう注意する必要がありますし、がんが増殖して大きくなると、このような重要臓器にがんが噛みついて(浸潤(しんじゅん)するといいます)しまい手術で取り切れなくなったりします。取れるか取れないかの見極めがとても難しく、無理にとろうとすると命取りになることがあります。そういう意味で手術の難易度がとても高いのです。

また、食道がんは、食道まわりだけでなく、首や胃の方までかなり広範囲にリンパ節転移を起こしやすいという厄介な特徴があります。食道と一緒に首から胸までのリンパ節を取る手術が標準的に行われており、1回の手術で同時に2か所も3か所も操作をしなければならなくなり、おのずと手術時間が長くなってしまうのです。それだけ、患者さんの負担は大きくなります。

 

 

 

 

 

浸潤(しんじゅん)とは、食道の一番内側の粘膜(食べ物の通り道)にできたがん細胞が、粘膜から粘膜下層、筋肉層に入り、食道の壁を越えてまわりの臓器(大動脈など)に広がっていくことです。
転移(てんい)とは、普段は、リンパ球や白血球が細菌やがん細胞を簡単に血管の中に侵入しないように守ってくれていますが、がん細胞がしぶとく増殖するとリンパ管を通り、さらに別のリンパ節で増殖します(リンパ節転移)。リンパ管は血管とつながっているため、増殖したがん細胞は、血管の中に侵入し、遠くの臓器(肺や肝臓など)に飛び火して、その臓器で増殖します(遠隔転移
播種(はしゅ)とは、まわりの臓器に浸潤しなくても、がん細胞が食道の壁を突き破ってこぼれ落ちて広がっていくことです。お腹の空間(腹腔内)に散らばったものが「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」で、胸の空間(胸腔内)に散らばったものが「胸膜播種(きょうまくはしゅ)」といいます。
手術の時にがんと一緒に肺や肝臓などにがんが見つかれば転移、手術後に見つかるのが再発と言われています。

食道がんの特徴

食道がんの特徴をまとめると、以下の4つになります。

  1. がんが大きくなると、食べ物の通り道が狭くなり(狭窄:きょうさく)、食べ物が通らなくなる食道はすごく伸びる臓器のため意外と最初は気が付かない、症状がでる頃には、病気がかなり進んでいることが多い。
  2. お酒やたばこが大きな原因のため、喉から胃まで広範囲にがんが広がっていたり、あちことに多発しやすい。食道がんが発見された人は、咽頭や喉頭がんになることも多い
  3. 上下方向(首やおなか)にリンパ節転移しやすい。首のリンパ節転移があって腫れると、声を出す神経がやられて、声がかすれてしまったり、飲み込みが出来なくなって肺炎を起こしたりする。
  4. 食道がんの手術の基本は、食道亜全摘(しょくどうあぜんてき)+首、胸、お腹のリンパ節を取る3領域リンパ節郭清(かくせい)。

治療方針はどうやってきめるの?

食道がんにも胃や大腸がんのように「ガイドライン治療=標準治療」があります。ガイドラインにはステージ別に標準治療が書かれています。ガイドライン治療に関しては、【食道がんと言われたら「ガイドライン編」前編後編もご参照ください。ここでは、まずガイドライン治療の前提となる「ステージの決め方」について解説します。

ステージの決め方

ステージの決め方は、浸潤(しんじゅん)転移(てんい)の度合いによって決まります。

  • 深達度(しんたつど):がんがどのくらい深く浸潤しているか
  • 転移の状況:転移にはリンパ節転移と遠隔転移があります。リンパ節転移の程度でステージ0からⅣaが決まります。食道がんのリンパ節転移は、リンパ節転移の数ではなく、転移の位置によってきまります。がんから遠くのリンパ節転移があれば、ステージが悪くなります。ステージ0が最も進行度が低く、肝臓や肺に遠隔転移があれば、ステージⅣb(一番悪い状態)になります。

ステージの注意点:食道に限ったことではありませんが、正確なステージは手術をしてみないと分かりません。手術でがんとリンパ節を取って、病理検査をします。その病理検査は、通常手術後2週間から1カ月後くらいに結果がでます。それを病理学的ステージといい、最終的なステージとします

つまり、手術前はステージ1だと思っていたのに手術をしたらステージ2だった、という可能性も十分にあるわけです。

どうして治療方針の決定が難しいの?

 がんの治療法はステージ別に決まってくるのですが、前述の通り、最終的な病理学的ステージと、手術前の画像検査から予測される見込みのステージ(臨床的ステージがあります。まずは大まかな治療方針は臨床的ステージで決めることになるので、診断の精度が治療方針に大きな影響を与えるのです。とくに食道がんの場合、画像検査だけでは隣の臓器への浸潤、リンパ節転移が予測しにくいこともあります。

 結局、手術をしないと正確なステージは分からないのですが、手術以外の治療を選択した場合は、ステージが分からずじまいということになる可能性もあります。また手術前に抗がん剤治療を行うケースも多いのですが、抗がん剤が良く効いていると、良い方向にステージが変わってしまっている可能性もあります。

まとめ

  • 食道は大動脈、心臓、肺、気管、背骨など重要な臓器に取り囲まれた場所にあり、がんが大きくなると、重要臓器に浸潤して取り切れなくなる。
  • 食道が首、胸、お腹まで長い範囲に存在し、食道がんが広範囲に広がっていき、リンパ節(胸、お腹、首の3領域のリンパ節)とともに取らなければならないので、大手術になりダメージも大きい。
  • がんの治療法は「ガイドライン」に「ステージ別」に書かれていて、食道がんのステージは、がんの深さリンパ節転移の位置で決まる
  • 手術前に放射線治療や抗がん剤治療といった手術以外の治療を受けると、最終的なステージが分からないまま治療をしていることになるため、放射線治療と抗がん剤治療のどちらがいいとか比べられない。

パンダ先生の病気の学校では、校長のパンダ先生がやさしく、わかりやすく食道がんについて解説しています。ぜひ、こちらの動画も併せてご覧ください。

 

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